人生が見つかった映画

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衣食住は生きるのに不可欠だけど、娯楽はなくても生きていける。

そうだろうか、今つらくても、この先に楽しいことがあるから生きていけるってあるのではないでしょうか。

岩井俊二監督の「スワロウテイル」

今日はこの映画を紹介させて頂きます。

いまから25年前、高校生だった私には学校にも家庭にも居場所がありませんでした。

当時の高校のある教師は、しっかり黒板に書いた内容を写し書きしているかを確認するために、クラスメイト全員のノートを集めさせました。そしてその教師は集めた私のノートを紛失しました。教師は私はノート提出していないと評価して、内申点を下げました。

納得のいかなかった私は、ノートを集めたクラスメイトの証言をもとに教師に謝罪と評価の回復を求めました。

その教師は最終的に私の母親を学校に呼び出して、「これ以上、お子さんがゴネるようなら学校にいれないようにする」と脅してこの問題を終結させました。

教師が母親を呼び出して、脅していたことを知ったのはずっと後のことでした。

同時期に、家庭も崩壊していました。

私が高校に入ると同時に父と母が急速に不仲になり、離婚になりました。

体育祭に父と母が別々に場所で参観していたのを見て、家庭の中でなにかが失われたのだと強く感じたのを覚えています。

当時の自分にはしたいことなどありませんでした。

ここから居なくなってしまいたい。

当時はそればかりを考えていました。

親とは会話せず。家は荒らし放題してました。

教師は誰も信用できず。目をつけられないように、話しかけられないように制服の学ランは詰め襟までしっかり留めていました。

世界のすべてが「嫌い」で埋め尽くされている閉塞感をずっと感じていました。

夏休みに入って、ずっと家で引き籠もっていたのですが、ふと、自分の貯金が10万円以上貯まっていることを思い出しました。

いままでもらったお年玉を、親が銀行に預けていたものです。

「全部使おう」

この世に未練がなくなったいま、使えるものは使い切ってしまおうと思ったのです。

ただ、どうにもお金をどう使ってよいのか分からない。

そんなときにふと、むかし親がレンタルビデオに連れて行ってくれて劇場版「ドラえもん」や「ドラゴンボール」のビデオを借りて観て、楽しかったことを思い出しました。

自転車を漕いで、近所のレンタルビデオで映画を借りることにしたのですが、いかんせん自分がなにを観たいのか全く分かりません。

いまのようにネットで調べる術もないですから。

最初に手に取ったのはスピルバーグでした。

無知な子供だった自分でも「ジュラシックパーク」はやはり怖かったし、大人と一緒に楽しめた映画だったので最初の拠り所として彼に頼ったんだと思います。

ただ、どちらかというと監督作品よりも、製作総指揮にまわった「キャスパー」「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「メン・イン・ブラック」とかが好きでした。

当時の自分は関係なく全部スピルバーグ監督作と思って観てました。

そんな取っかかりから、映画鑑賞にはまった私はひたすらレンタルビデオと自宅を往復する日々を過ごすことになります。

当時は洋画が全盛期で、邦画でヒットしている映画はほとんどないような時期でした。

だけど、ビデオレンタルを繰り返しているなかで、だんだんメジャーなハリウッド映画を見尽くしてしまった私は邦画の棚に移動しました。

映画に詳しくないので、とりあえず棚に並んでいるビデオを順番に手に取ってパッケージを見て、あらすじを読んで良さそうな映画を借りました。

その中に「スワロウテイル」があったんです。

手に取ったビデオパッケージは少年たちが千円札に穴を開けて、こちら側をのぞき込んでるビジュアル。裏面は風車と青空のビジュアルが印刷されていて、あらすじを読んでもいまいち分からない。

だけど、そこはかとなく邦画には感じたことのない洒落たビジュアルだったんです。

とにかく時間とレンタルするお金だけは当時の私にはあったので、レンタルして自宅で鑑賞しました。

衝撃的な時間でした。

何が面白いのか分からないけど、とにかく面白かった。

これが当時の感想です。

バブル経済のお金が潤沢に使えた時代に、正しい制作費の使い方をした映画だなと今は思います。

多分、ロケ地は都市開発前のお台場だと思うのですが、広大な土地に円都市(エンタウン)を作り込んで本当に存在するような架空都市をみせてくれます。

撮影は篠田昇で、邦画ではなかなか観れないカメラワークと淡い色彩でカメラに場面を収めています。例えがなかなか思いつきませんが、どの場面でもポストカードにできそうなくらい一つ一つの絵がきれいです。

役者が楽しそうに演技している感じが伝わってきました。

ほとんどが日本人で、一部中国人やアメリカ人の役者がいるのですが、日本人の役者が中国語や英語を流暢にしゃべるんです。役者が日本語と英語と中国をうまく入れ替わり使っているから邦画なのに無国籍の匂いがします。

演じる役者は大変なはずなのですが、さらりとやってのけるし、画面越しにその演技が楽しそうなんです。

衣装、背景、小物がいまでもダサくない。

個人的のはすごいことだと思っていて、特にいま観ても衣装が古い感じがしないんです。

現代設定で衣装がダサい、時代を感じてしまうと世界観に入れなくなるものですが、バブルの肩パット入れまくっていた時代によく後年でも通用する衣装に一貫できたものだと感心します。

「大事なものはなんなのか」

物語の核になるものはそれだと今は思います。

当時はただ面白かったと感じていただけでした。

お金があれば幸せになるのか。お金では手に入らない幸せがあるのか。

何のために生きているのか、何をしたいのか。何が成功なのか。

映画には「そのとき」必要な作品があると思います。

私には高校生活の鬱積した感情をどうしたらよいか分からない、あの時期にこの「スワロウテイル」が必要でした。

出会えた奇跡にいまも感謝しています。

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